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コロナ禍における通貨供給の時間差と実体経済への接続が為替に与えた影響

― 2020年3月初めから2021年3月初めまでの米国と日本の比較 ―

要旨

本稿は、近年の円安を単なる日米金利差ではなく、コロナ禍の初期から1年間、すなわち2020年3月初めから2021年3月初めまでにおける米国と日本の政策対応の差によって説明する。とりわけ、トランプ政権末期からバイデン政権初期にまたがる期間に、米国ではFRB公表の通貨量M1(市中通貨量)が約4兆ドルから約20兆ドルへ、約5倍に増加した。他方、その大幅な通貨供給は単なる通貨価値の希釈には終わらず、補助金・給付金を通じて市中経済を支え、倒産や失業による資金停滞を緩和した。これに対し、日本では通貨供給が実体経済の回復に十分つながらず、デフレ的構造と産業停滞が継続した。本稿は、この差が成長期待の格差を生み、結果として円安、さらには「日本売り」と呼ばれる資本移動につながったと論じる。

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1. 問題設定

近年の円安については、通常、日米金利差によって説明されることが多い。確かに金利差は重要な要因である。しかし、金利差のみでは、なぜ市場がドルを選び円を手放すのか、その深層を十分には説明できない。

本稿が重視するのは、2020年3月初めから2021年3月初めまでの1年間において、米国と日本がコロナ危機にどう対応したかである。この時期は、世界経済がパンデミックの衝撃を受け、倒産・失業・需要蒸発が同時に発生した特異な局面であった。その中で、米国はトランプ政権とバイデン政権にまたがって、大規模な通貨供給と財政支出を実施した。一方、日本は景気・雇用・産業を根本から押し上げるほどの財政拡張を十分に行わず、結果として経済停滞を長引かせた。

この違いが、為替市場における成長期待の差として反映された、というのが本稿の仮説である。
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2. 米国における通貨供給の急拡大

― 2020年3月初めから2021年3月初めまでの1年間 ―

2020年3月初めから2021年3月初めまでの1年間に、米国ではFRB発表の通貨量M1(市中通貨量)が約4兆ドルから約20兆ドルへと増加し、約5倍になった。
この変化は、単なる金融市場内の数字の変動ではなく、トランプ政権末期からバイデン政権初期にかけての財政支出・補助金政策と、FRBの金融緩和が連動した結果である。
通常、通貨量がこれほど急拡大すれば、理論上は通貨の希釈が進み、激しい通貨安やインフレが起きても不思議ではない。だが、この1年間の米国では、通貨供給の拡大が単純な通貨価値の崩壊にはつながらなかった。むしろその資金は、市中経済に直接流れ込み、危機下で途切れかけていた経済循環を再起動させた。
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3. 米国では通貨供給が実体経済を押し上げた

この2020年3月初めから2021年3月初めまでの1年間に、米国で供給された膨大な資金は、補助金や給付金の形で家計や企業に届いた。これにより、コロナショックによって起きかけていた倒産や失業の連鎖がある程度抑制され、資金の滞留が緩和された。

重要なのは、この資金供給が単なる延命措置ではなく、市中経済の活性化に結びついた点である。消費は下支えされ、企業収益は急落から持ち直し、投資意欲も回復した。危機のただ中にあっても、「市場にお金がある」「買い手がいる」「資金繰りが完全には止まらない」という状態が維持されたことが、米国経済全体の下支えとなった。

したがって、米国で起きたのは、単なる「通貨を増やした」という現象ではない。
より正確には、2020年3月初めから2021年3月初めまでの1年間に、急増した通貨量が実体経済へ流れ、経済成長期待を支える力として機能した、ということである。
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つづく



拍手[2回]


4. インフレ率とその性質

― 通貨希釈の規模に比べて限定的だった物価上昇 ―

これほどの通貨供給拡大が行われたにもかかわらず、当時の物価上昇率は約6%程度であった。
ここで重視すべきは、この物価上昇の性質である。

本稿の立場では、このインフレの主因は、通貨量そのものの増大による需要超過ではなく、ガソリン価格の高騰に代表される供給コストの上昇にあった。すなわち、ガソリン価格が5倍近く上昇し、その結果、輸送コストが全般的に押し上げられた。これが物価全体に波及したのであり、典型的なコストプッシュインフレとして理解されるべきである。

したがって、2020年3月初めから2021年3月初めまでの1年間に起きた米国の現象は、
「通貨を5倍にしたから5倍に近い物価高になった」という単純なものではなかった。
むしろ、大規模な通貨供給にもかかわらず、経済成長と供給制約が複合した結果として、物価上昇は約6%程度にとどまったのである。
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5. 日本との対比

これに対して日本では、コロナ危機への対応が経済全体を強く押し上げるものとはなりにくかった。金融緩和そのものは継続していたが、それが家計消費や企業投資の持続的拡大に十分つながらず、デフレ的傾向が続いた。賃金上昇も弱く、企業は内部留保を厚くする一方で、将来の需要拡大を前提とした積極投資には慎重であり続けた。

つまり、日本では通貨が供給されても、それが産業そのものを盛り上げる力に転化しにくかった。結果として、産業活力の低下が続き、将来成長への期待も高まりにくかった。

この点で、2020年3月初めから2021年3月初めまでの1年間の米国と日本の差は決定的である。
米国では、通貨供給の増加が危機下の実体経済を押し上げ、産業の再活性化を支えた。
日本では、通貨供給が産業再生のエンジンになりきれず、停滞構造が維持された。
---

6. 為替への帰結:金利差よりも成長期待差

この差は、為替市場において大きな意味を持つ。為替は単なる金利差だけでなく、「どちらの経済の方が今後伸びるか」という期待にも強く左右される。

市場から見れば、2020年3月初めから2021年3月初めまでの1年間に、米国は危機対応を通じて経済を押し上げる能力を示した。他方、日本は危機下でもなおデフレ的・停滞的な構造を引きずった。この認識が、「ドルを持つ方が有利であり、円を持つ理由は相対的に弱い」という判断を生み、結果としてドル買い・円売りを促進した。

したがって、円安の背景には、単なる金融条件ではなく、危機時における国家の経済運営能力への評価差がある。
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7. 結論

本稿の結論は明確である。
2020年3月初めから2021年3月初めまでの1年間に、トランプ政権とバイデン政権にまたがって米国はFRB発表のM1を約4兆ドルから約20兆ドルへ、約5倍に増やした。これは通貨の希釈というリスクを伴う政策であったが、その資金は補助金等を通じて市中経済に流れ、倒産や失業による資金停滞を緩和し、産業活動を支えた。にもかかわらず、物価上昇は約6%程度であり、その主因はガソリン価格の5倍近い上昇を起点とする輸送コスト増、すなわちコストプッシュインフレであった。

一方、日本はこの局面でデフレ的構造を継続させ、産業の衰退傾向を深めた。
その結果、市場は米国経済に対しては成長期待を、日本経済に対しては停滞懸念を強めた。
この成長期待の差こそが、円安、さらには「日本売り」の本質である。
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