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マスク、ランダム化比較試験で

『有意差なし』


日々予め幸せ  著者

 デンマークの6,000人以上を対象としたランダム化比較試験(RCT)で、マスクを着用した人と着用しなかった人でCOVID-19のウイルス感染率に有意差が無かったという論文が発表された。


ACP
Journals
www.acpjournals.org


 この論文について解説する。



目次

1 RCTで有意差なしの意味

2 この実験はマスク群が有利にデザインされていた

3 マスク群の家族に感染が多かった理由

4 まとめ



1 RCTで有意差なしの意味

 はじめにランダム化比較試験(RCT)とは何か?を解説する。

 RCTは、対象者が他の条件では等しくなるように振り分けられて、ある要因(マスク着用)が結果(感染率)にどう影響するかを確かめる臨床試験だ。

 RCTで統計的に有意な差が認められれば、科学的に因果関係を証明することができる。

 逆にRCTで有意な差が出なければ、その要因(マスク)は結果(感染率)を増減する原因ではないと考えられる


 RCTは、エビデンスレベル1と医学的エビデンスのトップに位置する。




 レベル1aは複数のRCTを集めて分析したメタアナシシスやシステマチックレビュー、この研究のように一つのRCTはレベル1bだ。

 ちなみに、マスクのエビデンスとしてよくメディアが取り上げる動物実験や実験室での機械的な実験はエビデンスレベル5以下、臨床的な因果関係はもちろん、相関関係すら証明することはできない。いくらでも実験者が条件を操作できるから、参考程度にしかならないということだ。


 これまで、マスクと感染率に関して市中で一般市民を対象にした大規模なRCTはなかった。この研究は世界初の試みであり、その意義はとても大きい。


 病院などで医療従事者を対象としたRCTはいくつかあったが、いずれもマスクは有意差を出せないか、逆に感染を増やしたり重症度を上げるという結果であった。


メタアナリシスでマスク医療従事者に効果なし。


Nonpharmaceutical
Measures for Pandemic Influenza in Nonhealthcare Settings—Personal
Protective and Environmental Measures
There were 3
influenza pandemics in the 20th century, and the wwwnc.cdc.gov


日本の医療従事者にマスクのメリットなし、頭痛増加。


Use
of surgical face masks to reduce the incidence of the common cold
among health care workers in Japan: a randomized controlled trial -
PubMed
Face mask use in health care workers has not been
demonstrate pubmed.ncbi.nlm.nih.gov


マスクが家族への感染を減らす効果無し、むしろマスク群で感染が多かった。


Surgical
mask to prevent influenza transmission in households: a cluster
randomized trial - PubMed
clinicaltrials.gov
NCT00774774. pubmed.ncbi.nlm.nih.gov





 今回のRCTは、初めてマスクの有効性が科学的に証明されると期待されて始まった。
 企画した研究者たちはマスク着用によって感染率が半分に減ると予想していた。
 ところが、
結果は『有意差なし』だった。


 一応、マスク群は0.3%(1000人に3)感染が少なかったという結果ではあったが、その差以上に重要なことは『有意差が出なかった』ことである。


 有意差なしというのは、その0.3%の差でさえも統計的に意味のある数字とは言えず『たまたま』『偶然』の可能性が高いということだ。例えば、サイコロを2回振って1と2が出たとする。だから「このサイコロは3以下が出やすい」と言えるだろうか?もちろん言えない。では100回振って全部3以下だったら?さすがにおかしいと思うだろう。


 結果が偶然か必然かを見極める統計的概念が『有意差』であり、P値や信頼区間(CI)で示される。


 P値は小さいほど有意とされ、有意差が認められるのは少なくともP<0.05だ。

 この研究ではP値は『P=0.38(比率でP =
0.33)
だから、有意差にはぜんぜん程遠いことになる。

 信頼区間(CI)は差の場合は『0』を跨がない、比率の場合は『1』を跨がないことが有意差の条件となる。

 この研究では差では『95%
CI, −1.2 to 0.4
』と『0』を跨ぎ、

 比率では『
CI,
0.54 to 1.23
』と『1』を跨いでいる。


 つまり『有意差なし』ということだ。サイコロを振って3より小さい数が出ることもあるように、統計的にはこの研究で『-0.3%』と出たことも偶然である。何度も同じ条件で実験をした場合はマスク群に感染が多いことも十分ありうると考えられる。


 この研究の結果はあくまでも『マスクが感染を減らすという因果関係は否定された』と言うことだ。 それは論文の中での議論がどうあっても覆すことはできない科学的事実である。


 ところが、マスクの有効性を信じたい人はそれを認めたがらない。人は誰しも自分が信じたいことだけを信じ、そうでないことは無視したり否定したりする傾向がある。そうした認知を『確証バイアス』と言う。


 例えば、この論文の序論で「観察的なエビデンスではマスクがSARS-CoV-2の感染を減らすことが示唆されている」などと書かれているから、この論文はマスクの有効性を否定していない、などと言いだす人がいる。それはこの研究が行われた背景に過ぎないのに、研究結果よりそうした自分に都合の良い文言しか目に入らなくなるのは『確証バイアス』の典型だ。(そもそも観察的エビデンスは相関関係は示せても因果関係は示せない


 しかも実は引用文献の中にはマスクが感染を減らしたことを示す観察研究すら無い。マスクが顔を直接触ることを増やしたという研究と減らしたという研究(引用文献8,9)があるだけだ。(直接顔を触る機会が減った以上にマスクを触る機会が増えていることだろう)  


 この研究の前提となった「マスクが感染を減らすことが示唆されている」というのは思い込みで、それを示す観察的エビデンスすら実は存在しなかったことを窺わせる。(あるなら引用したはずだ)


2 この実験はマスク群が有利にデザインされていた

 この研究はマスクの効果を証明するために行われた。だからマスク群で感染が減るように様々な工夫がされている。


 第一に、サージカルマスク(医療用のマスク)が用いられていることだ。この実験では、マスク群の対象者に対し、1ヶ月の実験期間に『50枚のサージカルマスクが供給された』


 さらにマスク群の対象者はマスクの適切な使い方の説明を受けた。


 実際には、市中で多くの一般市民が着用しているのは繰り返し使える布マスクであり、使い捨てのサージカルマスクでは無い。適切な使い方も教わらない。

 医療従事者を対象にした研究では、布マスクはサージカルマスクの13倍、マスク無しのコントロール群より有意に呼吸器感染症が多かった。


 サージカルマスクを毎日1回以上に交換させれば、同じ布マスクを何日も使い続けている実際の一般市民よりはるかに(13倍以上)有利な条件だったと考えられるが、それでも有意差は出なかったのだ。


 もしこれが繰り返し使う布マスクだったなら、マスク群の感染ははるかに多くなったことが予想される。


 またこの実験が行われたのは、4月〜5月デンマークであった。デンマークは北欧であり、首都コペンハーゲンのこの時期の日照時間は1415時間以上になる。


 コロナウイルスは日光で2分で失活することが知られており、日照の多い時期には感染が広まりにくい。(現に北半球で第1波とされる4月〜5月より秋以降の方がPCR陽性者数ははるかに増えている)



 感染が広まりにくければ、差が出にくくなる。またマスクに付着したウイルスも日光に当たることによって失活しやすくなる。

 もし秋以降、日照の少ない時期に同様の実験がされていたなら大きな差でマスク群に感染者が出ていたかもしれない。

 実際に、9月以降マスク義務化を強化したスペイン・フランス・イギリスなどはいずれもマスク義務化を強化して以降に感染者が急増し再ロックダウンに至っている。マスク着用を勧めないスウェーデンでも感染者は増えているが、マスク義務化国よりはるかにましである。



3 マスク群の家族に感染が多かった理由

 この研究ではもう一つ興味深い結果が得られた。


 マスク群の家族の方が、コントロール群の家族より感染が多かったのだ。


 多かったと言っても53:39で、統計的に有意かどうかはわからない。

 だから偶然かもしれないが、必然的にそうなる理由も存在する。

 それは以前ご紹介したマスクの『ウイルスお持ち帰りパック』効果だ。



 コロナウイルスの持続時間を調べた研究で、マスクは内側で4日、外側で7日、検討された多くの素材の中でもウイルスが最も長く感染力を持続したのだ。




 空気中ならコロナウイルスは3時間で失活するのにマスクは内外からウイルスを集め長生きさせ、着けた人が呼吸するたびに、手で触るたびに、活きたウイルスをばら撒くことを可能にするのだ。

 外されてからも、家のゴミ箱で、机の上で、ポケットの中で、マスクは何日もウイルスを保存し続け、ばら撒き続ける

 そうした効果を考えれば、マスク群の家族に感染が多かったのは当然とも思える。



 まとめ

 以上、この研究からマスク着用が感染を減らす有意な効果は否定された。

 それが科学的事実である。

 WHOCDC・各国政府・知事、それらに盲従する情報弱者、その他マスクを着けさせたがる者がどれだけ多数派でどんなに唾を飛ばしてマスク有効を力説しようとも、科学的根拠にはならない。

 そればかりか、マスク着用者の家族は感染リスクが増える可能性があることが示唆された。

 以下、論文の概要の和訳。


デンマーク人のマスク着用者における他の公衆衛生的方法にマスク推奨を追加したことのコロナウイルス感染予防効果 ランダム化比較試験


掲載誌 Annals
of Internal Medicine


掲載日 20201118


要約


背景

観察的研究ではマスク着用がCOVD-19の感染を減らすことが示唆されている。観察された相関が非感染者のマスク着用によるのか(感染予防効果)、感染したマスク着用者からの感染を減らすのか(感染源コントロールによるのか、それとも両方なのかは明らかでない。


目的

マスクが一般的でなく公衆衛生的に推奨されていない国で、自宅外でマスク着用を推奨することでマスク着用者の感染リスクが減るかどうかを評価すること。


デザイン

ランダム化比較試験(DANMARK-19[COVID-19感染に対する防御のためのマスクを評価するデンマーク人研究])(ClinicalTraials.gov:NCT04337541)


状況

デンマーク,
2020
4~5


対象者

職業的にマスクを使用せず、自宅外で1日に3時間以上過ごす大人。


介入

COVID-19
に対するソーシャルディスタンスを取るように推奨し、加えて50枚のサージカルマスクの供給とその適切な使用法の説明を受け自宅外で他人といる時にマスク着用を推奨された群と、マスク着用を推奨されなかった群を比較した。


測定方法


第1結果は抗体検査、PCR、もしくは病院での診断による1ヶ月時点のマスク着用者のSARS-CoV-2感染とした。第2結果は他の呼吸器感染症ウイルスのPCR陽性率とした。


結果


3030人の参加者がマスク着用群として、2994人がコントロール群(非着用群)としてランダムに割り振られ、4862人が研究を完了した。SARS-CoV-2感染はマスク着用群の42(1.8%)、コントロール群の53(2.1%)に起こった。両群間の差は-0.3%
(95%
信頼区間,
-1.2~0.4%
P=0.38[有意差なし])(オッズ比0.82[信頼区間0.54~1.23P=0.33[有意差なし])であった。この研究には複数の欠陥があり追加研究を必要とする。しかしながら、この研究で観察された差は統計的に有意でなく、その95%信頼区間はマスクの推奨は感染の46%減少から23%増加に相当する。


限界


決定的で無い結果、喪失したデータ、マスク着用の遵守に差があること、自宅での自己検査結果の報告であること、盲検ではないこと、マスク着用者から他人への感染は減らしたかもしれないことの無評価


結論


他の公衆衛生的方法に加えてサージカルマスクの着用を推奨したことは、感染率が高くなく、ある程度ソーシャルディスタンスが取られ、マスク着用が一般的でない社会において、50%以上の確率でSARS-CoV-2の感染率を減らさなかった。このデータはより程度の低い個人感染予防法と同程度である。


主要な資金源


Salling財団(デンマークの2つのデパートを営む小売企業、資本の19%をデンマークの運輸グループA.P.Moller-Maersk
Group
による)

https://en.sallinggroup.com/about-us/


(追記)こちらは他の方のまとめ。


 特に最後のところが重要です。この論文は発表までに一流医学誌が軒並みその結論ゆえに掲載を拒否したことが話題となりました。

 まさにそれらの雑誌は
『載せない無責任』を選択したと言えます。


コメントに対する回答


日々予め幸せ


いしいじんぺい 予幸医学を提唱する医師。トライアスリート。PHC(プラスの健康コンサルティング)主催


freudigさん、
この記事のメインテーマはあくまでデンマークの6,000人以上を対象としたランダム化比較試験(RCT)です。COVID-19とマスクのRCTはまだ他にありませんので、当然その他の論文は過去の他呼吸器感染症とマスクについてのRCTになります。そのいずれでも有意な効果が見られなかったと言うところがポイントです。



ryuk5さん、
医学研究は様々な思惑に基づいて行われます。結論が逆の研究があることは自然です。観察研究だけでもメタ解析はできます。ただ因果関係を言うにはRCTが必要なので、観察研究だけのメタ解析では因果関係は言えません。

 ご紹介いただいたnote記事(この記事ではないもの)で「マスクは感染リスクを15%にする(85%低減)と証明した」と書いているのは明らかな誤りで、正確には「マスク使用群で感染リスクが15%低下したことが観察された(それがマスクが原因とは限らないが)」となります。観察研究はマスク使用群と非着用群の条件を揃えていないので、マスクが原因とは言えないのです。

 特に研究者が結果に意図を持っている場合、観察研究は対象者を選択できるためRCTよりはるかに操作が容易になります。ウソをまとめて解析すればやはりその結果はウソになります。

「信頼性」と言っても、何を信頼するかはその人によりますが、現実との矛盾は隠しきれません。

 「デマ撲滅ファクトチェック集」と称する伊賀治氏のnoteがまさに示してくださっているのではないでしょうか。


「スウェーデンで変異株が子供たちに広がって死亡も12人」のソースと思われるツイートを発見しましたが、その数字は昨年からの合計で、変異株は関係ないのではないかと思われます。スウェーデンの宮川絢子先生に質問してみました。


やはり12人はスウェーデンでCOVIDで亡くなった子の総数だそうです。変異株は関係ありません。重篤な余病ありの子達だそうで、マスクも自粛も関係ないでしょう。

https://twitter.com/AyakoMiyakawa/status/1376108897505796100


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